遺跡発掘について
藤田祐樹
国立科学博物館 研究主幹
発掘現場のムードメーカー
2007年の発掘開始当初から調査に従事
藤田祐樹
国立科学博物館 研究主幹
発掘現場のムードメーカー
2007年の発掘開始当初から調査に従事
「住みたくなる洞窟」かな(笑)。谷全体の異世界のような空間に、まず驚きました。そして、後の発掘調査現場となる武芸洞に初めて入ったときには「絶対ココに古代人が住んでいたはず!」と確信しました。発掘調査のため、港川人が暮らしていたと思われる場所を探していたので「ココだ!」と。
武芸洞は人が住むための条件が整った素晴らしい洞窟です。天井は高く、開放的で光も風もよく通り、近くには川が流れ森へのアクセスも抜群。僕が古代人なら絶対ココに住む、と思いましたね。
発掘調査はよい発見に恵まれるかどうか、掘ってみないと分かりません。しかし、武芸洞やサキタリ洞は時間をかければかけただけの成果が出る、大当たりの場所なんです。それに加え、ガンガラーの谷を運営する株式会社南都さんが学術研究に理解が深いことも、研究者として嬉しい点です。ガンガラーの谷では発掘調査や研究成果を観光施設のコンテンツとして活用し、お客様を楽しませている。学術研究はより多くの人に知ってもらい楽しんでいただくことで価値が高まります。ここでの調査研究はたくさんの方が興味深く見てくれているので、研究者冥利に尽きます。
いくつかありますが、外せないのはサキタリ洞に2万年前の堆積層が残っていると分かったときですね。私たちは港川人のいた約2万年前の調査を目標にしていたので、その時代の地層を見つけられたことは大きな前進でした。その次は、約3万年前の地層から子どもの頸椎(首の骨)が出たとき。発掘中に「ヤバいのが出た!」とパニックになり謎の言動をしてしまいましたよ(笑)。これは動揺を隠せない発見でした。最近では、発掘した貝器のひとつが釣り針と分かったとき。世界最古の釣針を自分たちが発見するとは思っていなかったので、かなり興奮しましたね。発掘後の分析でしか判明しないことも多いので、現場だけでなく発掘後にもいろいろ驚かされています。
貝を削って発掘したものと同じ形状の釣り針を作り、実際にウナギを釣ってみる、という実験を行いました。簡単には釣れないので1年間、夜な夜な川に出かけて…。自分でやってみると、いろんなことがわかります。夏の川には生き物がいっぱいいてウナギも活発に動いているけど、冬の川は生き物が岩の下に隠れて何も釣れないこととか。港川人は季節ごとに住む場所を移動していたのかな、と経験したからこそ立てられる仮説もあります。
約2万年前の地層からは貝の道具や装飾品が出ていますので、それより古い時代の道具を発見することが現在の目標です。約3万年前の地層からは人が食べたカニの殻や動物の骨は出てきていますが、道具と思われるものはまだ出ていません。道具が出れば、その時代の人々の生活の様子をさらに生き生きと描くことができます。その後の目標は、今後発掘したもの次第ですが、あと数十年はこの場所を掘り進めたいですね。また大当たりの発掘があるかも知れない、その可能性が高い場所ですから。
取材日2021年3月26日