遺跡発掘について
山崎真治
沖縄県立博物館・美術館 主任学芸員
冷静沈着な遺跡の守人
2007年の発掘開始当初から調査に従事
山崎真治
沖縄県立博物館・美術館 主任学芸員
冷静沈着な遺跡の守人
2007年の発掘開始当初から調査に従事
サキタリ洞や武芸洞など谷の中にある洞窟は、おそらく数万年前とほとんど同じ風景。ここは3万年前に生きた人と同じ空間に身を置き、同じ風景を見るという追体験ができる、非常に貴重な場所であります。ガンガラーの谷は元々、希少な生き物や大自然、生活文化が残る価値の高い場所ですが、我々が発掘調査をすることで、古代人の痕跡という新しい価値を追加することができたと思います。例えば、武芸洞には発掘された石棺墓がそのまま公開されていますが、丁寧に埋葬された人骨を見ると、約2500年前の人々の死者を悼む心や悲しみが伝わってくるようです。この場所に暮らしていた古代人の感情までも読み取ることができる、類を見ない場所です。
発掘調査や研究は、分かりやすく言うと警察の捜査のようなものです。
発掘したものを通して数万年前の暮らしを解明するために調査研究しているのですが、遺物や痕跡が出たという事実は、そこに人が暮らしていたという動かぬ証拠。警察の捜査と一緒で、我々も3万年前の現場から証拠や情報を集めて解析し、何が行われていたのかを突き止めます。大事なことは少ない手掛かりを生かしてどう仮説を立てるか、ですね。発掘を通して得られたわずかな情報を元に過去を復元していく、そういう作業を続けています。事実をより明確にするために、少しでも多くの手掛かりとなる証拠が欲しい。そのための発掘調査です。
発掘したものが何のために、どう使われていたかなどを考えるとき、既存の知識にとらわれてしまうことがあります。画期的な発想や新しい閃きが欲しいときには、思考を切り替え深く集中するため瞑想をしたりしますね。あと、追体験も重視しています。例えば昔の人がどうやって貝を捕っていたのかを知るため干潟に行って試してみる、とか。追体験するとより深く理解ができ、イメージの沸き方も変わります。少しでも古代人に近づくために、いろんな工夫をしていますよ。
ガンガラーの谷にはまだ調査していない洞窟がたくさんあって、未知の「何か」が出てくる可能性を秘めている。発掘調査によってこの場所の価値を証明できる材料が揃えば、世界遺産登録も夢ではありません。しかし、世界に認めてもらうにはまず証拠をそろえること、そして地元の人にもその価値を認識してもらうことが大切です。皆さんに理解してもらえるよう、日々調査を続けその成果をしっかり伝えることも我々の大事な仕事だと思っています。
取材日2021年3月16日